魅惑への助走
 「大人の恋愛?」


 「うん。大人」


 食べ終わったお皿などをさっと水でゆすいだ後、食器洗い機に一枚一枚並べている上杉くんの背中に。


 そっと身を寄せるのは私。


 それが愛の行為を求める合図。


 「あれ? 明美今日は見たいテレビがあるって言ってなかった?」


 「録画しておく」


 「……分かったよ」


 上杉くんは絶対に、私の要求を断らない。


 私が望んだ通りのことをしてくれる。


 美味しいものが食べたいと言えば作ってくれるし、抱いてほしいと求めたらこうして。


 「たまには上杉くんのほうから、誘ってくれてもいいのに」


 いつも誘うのは私からで。


 これじゃ私が欲が強いみたいだし、一方通行な想いばかりみたいでなんか不公平感。


 「だって。もし誘ったとしても、明美がその気じゃなかったら迷惑だろうし」


 「そういう時は、強引に私をその気にさせてみて」


 今までの男は無理矢理私を押し倒すような人ばかりだったので、立場が逆転してしまうと少々不安。


 嫌々私の欲求に付き合ってくれているだけなんじゃないかって、心配になる。
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