魅惑への助走
 ……。


 「痛くなかった?」


 終わった後、またしてもそんなことを尋ねてくる。


 「痛みなんて感じている暇なかった」


 それはお世辞などではなく、心からの賛辞であることを証明したくて、汗に濡れた体を抱き寄せ、キスをした。


 体の相性というものの存在を、どうしても確信してしまう。


 「無理してない?」


 それでもまだ自信を持てない様子。


 「無理してたら、私がこんなに疲れ果てて動けなくなってるわけないじゃない?」


 「ん……」


 私がこれだけ感じている姿を目の当たりにしても、まだ不安なのだろうか。


 自分が女をここまで蕩かせることができるという自信を持ってもらうには、経験を重ねるしかないとも思う。


 何人もの女と夜を重ね、それによって経験を積み、自分の技術を確かめる。


 「いや……!」


 考えるだけで怖くて、上杉くんに抱きついた。


 想像しただけで嫌だった。


 上杉くんには他の女に触れてほしくない。


 私だけ見ていてほしい。
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