魅惑への助走
 「どうしたの、明美」


 ぐったりとベッドに横たわっていた私が急に起き上がり、抱きついてきたので上杉くんは驚いている。


 「こうしているのは永遠じゃないかもしれないって、考えただけで怖い」


 私たちの関係は、永遠という保証はどこにもない。


 上杉くんは司法試験に合格して、弁護士として勤務し始めたら。


 間違いなく無数の女が群がってくるだろうし、私より若くて綺麗な女に心変わりしてしまうかもしれない。


 それ以前に、もしも私の秘密……職業を知られたら。


 AV業界に勤務する女など! と軽蔑して、今まで隠していたことをも咎められ、怒って去っていってしまうかもしれない。


 それらを考えると、いつ私たちの日々にピリオドが打たれるか分からない。


 「俺が明美のそばから離れるはずなどないって、いつも言ってるのに」


 私の秘密を知らない上杉くんは、私の不安の真の理由など気付くはずもなく笑ってる。
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