魅惑への助走
 「明美がいつも心配するのは、きっとあれだよね。俺の将来がはっきりしないから」


 上杉くんは私の不安の原因はそれだと、ずっと誤解したままだ。


 「努力不足なのか、向いていないのか最近よく分からなくなってきてるんだけど。司法試験合格してきちんと仕事に就けて、軌道に乗ってきたら……明美に結婚を申し込もうって思ってる」


 「えっ」


 いきなり「結婚」の二文字が登場したので、さすがに驚いた。


 「まだ付き合って間もないのに、こんなこと口走ったら引かれるかもしれないって心配なんだけど。俺ももう、明美なしの人生なんて考えられないんだ」


 「上杉くん」


 「だけど、試験合格まではちょっと待ってくれないか。今はまだ、明美の将来を囲い込む自信もないし、そんな立場でもないから」


 「ありがとう……」


 結婚とまでは飛躍しすぎだとは感じたけど、上杉くんもまた私といつまでも一緒にいたいと思ってくれていると知ることができて、嬉しくてまた涙が出てきた。


 「また泣いてる」


 涙を拭うように唇を触れてくれた上杉くんを、強く抱き返した。
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