魅惑への助走
 「色や形状は明美に任せるよ。ただ税金が高くなるから、あまり排気量の大きい車は避けたほうがいいんじゃない?」


 大人数で乗る機会は少ないし、二人で乗るのが基本だから、小回りの効く車で充分との意見だった。


 週末の上杉くんとのデートの折か、仕事の際営業などで公共交通の不便な場所に出向く際に使うのが中心。


 「駐車場は決まってるの? 車庫証明の問題が」


 「職場の近くに、安く借りられるところがあるので。それは大丈夫。週末に乗る際は、あらかじめ移動させるから」


 そして次の週末に、購入手続きを完了させ。


 納車はその次の週末となった。


 何とか夏が終わらないうちに、車を手元に置くことができそうだ。


 お盆のラッシュを避けて、一泊二日で鎌倉か箱根に旅行したいと計画していた。


 海が見たくて。


 「俺たちの故郷にも、一応海はあるんだけどね」


 「……」


 互いにこの夏も、帰省の計画はないまま夏は過ぎてゆく。
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