魅惑への助走
 例えようもない気だるさに支配され、シーツに包まりベッドに横たわったままの私。


 もう用済みとばかりに男は私から離れ、枕元にあったタバコとライターに手を伸ばした。


 やがて勢いよく放たれる煙。


 「ごほ……」


 煙たくてむせぶ私にはお構いなしで、男は美味しそうに煙を吸い込み吐き出す。


 「お前、吸わないの?」


 義理で男は、煙草の箱を私に差し出す。


 煙たくて鼻と口を手で押さえたまま、私は首を振った。


 「まだお子ちゃまだもんな」


 男は鼻で笑いながら、再び煙草の箱を枕元に置いた。
< 3 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop