魅惑への助走
***


 「明美の運転って、安定しているよね。ペーパードライバーだったなんて信じられないくらい」


 車が手元に届いて以来。


 休みのたびに上杉くんを助手席に乗せて、運転の練習。


 旅行で遠出する前に、この車にもっと慣れておきたかった。


 「今までほとんど、運転しない生活だったんでしょ?」


 「いや、車は仕事で結構運転していたから。運転自体には慣れてるんだよね」


 上杉くんを迎えに行き、駅前の込み入った道を抜けて、国道へ。


 週末の午前中、国道は若干渋滞。


 「そっか。車で営業とかに出かけるんだっけ?」


 「ま、まあ。そんなところ」


 「ところで明美って、どんな仕事してるんだっけ? OLっていうか事務員さんだと思ってたけど、外回りもあるんだね。営業なの?」


 初めて上杉くんが、私の仕事に言及してきた。


 余計な話をしちゃったな……。
< 311 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop