魅惑への助走
 「……明美、聞いてる?」


 急に上杉くんに肩を触れられて、びくっとした。


 「ご、ごめん。ちょっと考えごとを」


 振り返って言いわけする。


 妄想の中で作り上げていたAVネタを見透かされたような気がして、恥ずかしい。


 「あの観覧車だけど、遊園地の中のアトラクションらしい。営業時間は日曜は午後十時までだって」


 私がぼーっと海を眺めている間、上杉くんは携帯電話のウェブから情報収集してくれていたようだ。


 「ありがとう、調べてくれて。せっかくだから行ってみようか。今からだと夕食もそこで」


 歩き出そうとした私の手首を、上杉くんは掴んだ。


 「どうしたの?」


 「明美って時々、遠い目をしてどこかを見てる」


 「そうかも。私、妄想癖があるみたいで」


 笑ってごまかそうとしたのだけど、


 「何を考えてるの」


 「何って。……今晩何食べようかなとか、そんなこと」


 新作AVの構想を練っていたとは言えず。


 「本当にそれだけ?」


 「え?」


 「最近、なぜか不安なんだ。明美はいつか、遠い世界に行ってしまいそうな気がして」
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