魅惑への助走
 「遠い世界って。どうして私が」


 笑い飛ばそうとしたのだけど、


 「どこか遠くを見て寂しそうにしていると、帰るべき世界のことを考えているんじゃないかって心配になる」


 「それって。私は月を眺めるかぐや姫?」


 冗談で言ったのだけど、上杉くんは真面目な表情を崩さなかった。


 私に秘密が多すぎるから、それを察した上杉くんは壁のようなものを感じてしまうのかもしれない。


 だけど何もかもさらけ出すことだけが、関係を深めるとは限らない。


 度が過ぎたぶっちゃけトークで逆にドン引きされ、愛情がなくなってしまうことだってある。


 二人の楽しい時間を守るためには、余計なことなんて打ち明けなくてもいいと思っていたのだけど。


 「……早く行かないと、遊園地を巡る時間がなくなっちゃう」


 シリアスな空気を一掃したくて、上杉くんの手を引いて遊園地へと向かった。


 観覧車はすぐそばに見えたけど、歩いたら案外距離があった。
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