魅惑への助走
 ……。


 「噂通り、宝石箱をひっくり返したみたいだね」


 遊園地に入り、まず夕食を取り。


 適当にアトラクションで遊び、夜の帳に包まれた頃合を見計らって観覧車に。


 「周りはカップルだらけだね」


 「俺たちも同じじゃない?」


 「そっか」


 自分たちも周囲と同じであるということを自覚していなくて、思わず苦笑した。


 巨大な観覧車なので、昇っていくのにもかなりの時間を要する。


 窓の外は都会のネオンと、何もない部分は山間部と夜の海。


 「海にも橋が架かっていて、そこが天の川みたいになっている」


 隣に座る上杉くんが指差した辺りは、夜の海に架かった橋が輝いていて。


 その周囲を流れ星のように、船が夜間航行している。


 どんどん高度が上がるに連れて、細かい輪郭は分かりにくくなっていくけれど、見える範囲が広がっていく。


 「私たちの家も見えるかな」


 「昼間、望遠鏡で覗けば見えるかも」


 私たちの住む方角を上杉くんは指し示してくれるけれど、当然曖昧すぎて分からない。
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