魅惑への助走
 月曜日は憂鬱だ。


 「そろそろ起きなくちゃ」


 「ん……」


 気だるい朝は、いつまでもこうしていたい。


 でも仕事がある。


 やりがいのある仕事だけど、嫌なこともゼロではない。


 浪人中の彼氏を実質養っているのは私で、仕事をしないと二人の世界が成立しない。


 節約のため、上杉くんはボロアパートを引き払って、私の部屋に転がり込んできた。


 付き合い始めた頃は、けじめをつけるためにも同棲は避けたいと思っていたのだけど。


 車を買ってから、金銭的にもちょっと苦しくなってきたので、節約できるところは節約しようって話になった。


 そして……一緒に住んでいると。


 いつでもこうして抱き合える。


 それでもまだ足りなくて、仕事に行くためにベッドを後にしたければならないのも惜しいくらい。


 「上杉くんも、そろそろ起きないと」


 その言葉にも聞こえないふりをして、上杉くんは私を離さない。


 「予備校の夏期講習の準備もあるでしょ?」


 「いい。今日は休む」


 「だめ! 一日サボるとサボリ癖が付くんだから」


 最近、上杉くんが勉強にあまり熱心じゃないのが気がかり。


 確かに私も学生時代、暑い真夏はあまり勉強する気持ちにはなれなかったけど。
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