魅惑への助走
 だけど、いくら暑くてやる気が出ないからって、逃げてばかりいてはだめだ。


 このままでは浪人とフリーターとの境界線も曖昧な、非正規労働者もしくはニートで一生を終える羽目になるかもしれない。


 「さ、早く起きて。受験までまだまだって思っていても、来年なんてあっという間なんだから」


 「明美は、俺が司法試験に合格できなくても、好きでいてくれる?」


 「えっ」


 「努力はしているけどさ、倍率も高いし、こればっかりは思い通りにならないかもしれない。もしも別の道を歩まなければならなくなったとしても、明美は今のままの気持ちでいてくれる?」


 「……」


 答えに窮した。


 正直、自信がない。


 もし仮に、無職の彼氏を私が一生養い続けていくことになったとしたら……?


 弁護士の彼氏を周囲に自慢したいわけではないのだけど、その予定が狂った時、すんなり別の道を見つけられなかったとしたら?
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