魅惑への助走
 「だめ?」


 着ているものが、少しずつ緩められていく。


 「いいよね?」


 「それよりまず、今後の家計のやりくりについて……」


 私の肌を求めるその腕から何とか逃れようとしたものの、


 「明美の引力の前に、俺は無力だよ」


 また訳の分からない、どこかのクサい歌詞のような台詞を甘い声で、私の思考能力を低下させる。


 たまには真面目に相談しなきゃならないことも、たくさんあるのに。


 抗えないまま、今夜も私は……。


 何一つとして問題は解決しないまま、ただ官能の波に溺れ続けていた。
< 328 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop