魅惑への助走
***


 「あー眠い!」


 助手席に誰もいないので、つい大あくび。


 その日私は一人で、隣の県へと向かって車を走らせていた。


 自宅から直接出向くため、マイカーを使用。


 次回のロケ地の下見に、今日は一人で行ってこなければならなかったのだ。


 公共交通では非常に不便な地域なため、車で行くのがベストな選択だった。


 昨日の夜は取引先との接待飲み会で、若干二日酔い気味。


 朝から健康ドリンクを一気飲みして、気合いを入れる。


 単調な直線道路が続くため、運転中あれこれと物思いにふける。


 最近上杉くんが勉強に集中できていない。


 司法試験という人生で最も困難な壁よりも、目の前の安楽な日々に流されているようで、ちょっと気がかりだ。


 このままだと来年もまた……?


 とはいえ試験はまだ半年以上も先のこと、一年中ずっと集中をキープするのは誰にも不可能なので、一時的なスランプと信じて今は静観中。
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