魅惑への助走
***


 「えっ、ボウリング大会、ですか?」


 「ゴメン。大会ってほどじゃない、親睦会程度のもんだし、適当にピン倒していればいいから」


 暦は徐々に秋になってきた今日この頃。


 出勤すると突然、社長に今晩ボウリング大会に参加してほしいと頼まれた。


 本来は社長が参加予定で、やる気満々だったものの。


 急に大型書店との打ち合わせの予定が入ってしまい、SWEET LOVE代表として私が参加することになってしまったのだ。


 「今度新作DVDの特別コーナーを設けてくれるって言うし、新作発売記念に出演男優のサイン会も開催することになってね」


 打ち合わせの都合が、今日しか空いていなかったらしい。


 ボウリング大会は代役可能とのことで、他の人たちはそれぞれ所用があったため、定時で退社予定だった私が代役を仰せつかった。


 「だけど私、社長ほど上手くないですよ。大学時代からずっとやってないし」


 「大丈夫大丈夫。大会じゃないし、女の子にはハンデがあるから」


 社長はハンデがなくとも、男性陣のスコアを軽く上回るほどの上級者。


 私はもう五年近くやってないし心配だったけど、競技じゃないし接待感覚で気軽に遊んでらっしゃいと送り出された。
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