魅惑への助走
 飲み会会場まではタクシーで移動。


 私は同じレーンでボウリングした三人と、一緒のタクシーに乗り込んだ。


 葛城さんが助手席に座り、タクシーの運転手に行き先を告げている。


 私は他の二人のおじさまに左右から挟まれる形で、後部座席の中央に座った。


 「あれっ、誰にメール? 彼氏かな?」


 こういう展開になるので、トイレなどでこっそりメールをすべきだったけど。


 ボウリング場で捕まってしまい、一人になる時間もなくタクシーに押し込まれた。


 すでに時計は午後八時を回っていたため、上杉くんが何も食べないでお腹をすかせて待っていたら困ると心配し、タクシーに乗り込んですぐにメール。


 「いえいえ、そういうんじゃありませんよ」


 別に隠す必要もないのだけど、初対面の人たちに彼氏のことをあれこれ喋るのもなんだし、適当にお茶を濁しておいた。


 その後すぐに上杉くんから返信があった。


 「お疲れさま。仕事上の流れで仕方ないよね。こっちは一人で食べた後、勉強してるから」


 勉強、か……。


 私は苦笑して、携帯電話を閉じた。


 最近勉強にあまり身が入っていないようだし、結局テレビでも見ながら寝ちゃうんだろうな、なんて予想しながら。
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