魅惑への助走
 「ホストを軽く見ちゃいけないよ。あれだってかなりのエキスパートだ。成功するには生半可な気持ちじゃ絶対無理」


 「そうですね。彼にはちょっと向いていないかも。ですが絶対に仕事は見つけてもらいます。裸一貫、何だって始められるはず」


 「裸……。例えばAV男優とか?」


 「えっ、男優!?」


 葛城さんの予想外の言葉に、私は思わず大きな声を出してしまった。


 しかしここはカラオケボックス。


 周囲はざわめいていて、誰にも聞かれずに済んだ。


 上杉くんが、AV男優……?


 あの穏かな振る舞いと、女を扱う際の優しさ。


 AV男優に相応しいポイントを兼ね備えているとはいえ、それだけでは……。


 それより何より、男優は衆人環境下で性行為に励まなければならない。


 周囲の要求に応じて自らの快感をコントロールし、回数をこなし、仕上がった作品は全国に流通し、不特定多数の購入者の目に晒される。


 (そんなの上杉くんには、無理無理)


 性質的な向き不向き以前に、人前で裸になり、性を売り物にしていくという職業は、上杉くんには過酷すぎて無理としか思えなかった。
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