魅惑への助走
 私は一糸まとわぬ姿で肌を晒し、さっき出会ったばかりの男を招きいれている。


 「嘘っ! どうして……」


 信じがたい事態に動転し、飛び起きて逃げ出そうとした。


 「今さら逃げるつもり?」


 起き上がった途端、葛城さんに捕まえられてしまう。


 「誘ってきたのは……明美ちゃんのほうだよ。こっちをその気にさせておいて、今さら逃げるなんてずるくない?」


 「まさか私、そんな」


 腕の中でもがく私。


 その間も指は私の感じやすい部分を巧みに刺激し、痺れるような快感が襲い来る。


 「いや……!」


 それは逃げようという意欲をかき消してしまうには十分すぎて……。


 「罪悪感、ある?」


 私が逃亡を断念したのを見透かしたかのように。


 葛城さんが耳元で問いかける。


 「彼氏に悪いと思うなら、やめてもいいよ」


 そして指の動きが止まる。


 「俺は、明美ちゃんが誰かのものでも構わないけど」


 「……」


 意地悪だ。


 私がもはや、逃げる気持ちなどないのを分かっていて……。


 「……お利口だ」


 私が体の力を抜き、再び先ほどの行為に戻ろうとしたのを確認して、葛城さんは私に覆い被さってきた。
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