魅惑への助走
***


 「やっぱり……、やばいよね。これ」


 一連の行為の後、燃え尽きるように二人とも寝てしまったようで。


 はっとして目が覚めると、窓の外はほのかに明るくなっていた。


 とりあえず現状を把握しようと、辺りを見回す。


 ……ここはどこかのホテルの一室らしい。


 どうやってここまでたどり着いたのか、全く記憶がない。


 タクシーに乗り込む際、よろめく私を葛城さんが支えてくれたまでは覚えているのだけど。


 服がベッドの周りの床に飛び散っている。


 慌しくベッドになだれ込んだのだろうか。


 そして一夜の過ちの相手となった葛城さんは、私の隣で枕に顔を埋め、気持ち良さそうに眠っている。


 相当深い眠りのようで、私がベッドを抜け出しても気付かなかった。


 ベッドを飛び降りて、大急ぎで辺りの衣服を拾い集めて着込み。


 ソファーの上に置かれていたバッグなど私の荷物を回収し、転がるように部屋を飛び出した。


 シャワーをして罪の痕跡を洗い流そうと思ったものの、一刻も早くここを立ち去るべきだと判断した。
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