魅惑への助走
 「!」


 体の深い部分に快感を感じ始めた時。


 私は昨夜の裏切り行為を赤裸々に思い出した。


 「もっと素直に感じて」


 あの男の声が、耳に響いてぞくっとする。


 「彼氏と違うのも、たまにはいいよね」


 「だめ!」


 私は思わず声を出してしまった。


 「どうした? ……痛かった?」


 私の奥まで触れていた上杉くんは、その行為が私に痛い思いをさせているのかと誤解したらしい。


 「違うの。もっと……して」


 「明美?」


 私は体を動かした。


 いつものように、受け入れてばかりでは満足できなくて。


 いや、それ以上に行為の合間に昨夜の記憶が甦ってくるのに耐えられなくて。


 まるで男を襲っている女のように。


 昨日のことを忘れ去ってしまいたくて、記憶を失ってしまうくらいの快感が訪れるようにと願った。


 ……枕元のライトに照らされ、私たちの影が壁に映る。


 その姿はまさに、獲物を貪る獣とその餌食のよう。
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