魅惑への助走
 (そうだ、もしかしたら、これ程悩むことじゃないのかもしれないんだ)


 そんな考えに至った。


 (葛城さんだっけ。あの人だって大して考えず、一夜限りの遊び程度にしか思ってないんだろうし)


 さほど重要なことじゃなかったような気がしてきた。


 (あれくらいかっこよくてお金もあったら、他に女なんか無数に群がってくるんだろうし、私相手に本気になってる暇なんかないかもしれない)


 昨日のことは、体だけの繋がり。


 向こうは少しも本気になどなっていないんだろうし、きれいさっぱり忘れてしまったほうがいいと判断。


 「明美、焼き肉どうする? 出かけるならそろそろ」


 上杉くんはすでに着替えを始めていた。


 「そうだ、焼き肉食べ飲み放題のクーポンがあるから、そこにしない?」


 「了解」


 私もベッドから飛び起きた。


 こんな時は目一杯食べて飲んで、面倒なことなどさっさと忘れ、楽しいことだけを追求しようと思った。
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