魅惑への助走
***


 「おはようございます」


 月曜日。


 新しい一週間が始まり、SWEET LOVEのオフィスに到着。


 「あら明美ちゃん、いつもより遅かったんじゃない?」


 やはり予想通り、松平社長のほうが先に来ている。


 「すみません。列車に一本遅れまして」


 「急ぎの用は特にないから大丈夫よ。土日に届いたメールやファックス、もしも重要なものがあったらチェックしておいて」


 「了解しました」


 まずパソコンを起動し、SWEET LOVEのオフィシャルメールアドレス宛に届いているメールをチェック。


 ……まさかとは思うけど、葛城さんからのものがないか心配だった。


 ホテルから逃げ帰ってしまい、その後怒ったりしていないかどうか、今になって不安になってきた。


 料金を請求されたらどうしよう。


 ……不安は杞憂に終わり、ユーザーからのDVD感想メール以外は特に異常なし。


 ファックスも広告がいくつかあったのみ。


 今朝遅れて到着したのは、電車に一本遅れたせいだけど、それは意図的なものだった。


 遅くなるのが分かっていて、いつもより一本後の電車に乗った。


 いつもの時間に出勤するのが怖かった。


 早くから勤務しているという葛城さんに、遭遇してしまいそうな気がして。
< 375 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop