魅惑への助走
 飲み会の際もメールアドレスや電話番号など、連絡先の交換はしていない。


 ホテルでは記憶がないけれど……、少なくとも私の携帯電話のアドレスには、新しいデータは追加されていない。


 おそらくホテル内では、部屋に入るなりすぐ服を脱いで、そういう行為に突入したものと推察される。


 連絡先を交換する余裕もきっとなかっただろう。


 とはいえ私の名前も勤務先もバレているわけだから、何か言いたいことがあったらきっと現れるはず。


 同じビル内にいる以上、永遠に逃れ続けることは無理だろう。


 (いや……。本気で私に会いたいと思ったならば)


 あれこれ考えた。


 (本気で私に会いたいなら、松平社長に問い合わせてでも私の連絡先を探って手に入れたはず。そこまでしていないってことは、大して重要視してないってことだ)


 抱く時は「お前以外何も要らない」だとか、「もうお前を離さない」だとか、甘い言葉を散々囁くくせに。


 抱き終わったらもう用済みで、どうでもよくなってしまうのだろう。


 きっとあの人も同じなんだ。


 これまでの男が大部分そうだったように。
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