魅惑への助走
 (あ……)


 その時私は気がついた。


 男なんて所詮そんなもん……と、葛城さんを「その他大勢」の男のカテゴリに分類してしまうことに対し、ある種の寂しさを覚えている自分に。


 (私……)


 一夜限りの過ちの相手のはずだった。


 もう忘れなきゃならないのに、私は……。


 「おはようございます」


 その時男の声がして、SWEET LOVEのドアがガラッと開いた。


 「!」


 なんと葛城さんが入ってきた。


 「おはようございます葛城さん。いきなりどうしたのですか」


 ドアから正面にデスクを構える松平社長が、まず葛城さんに気がついた。


 年齢は社長のほうが少し上らしいけど、肩書きは同じ代表取締役、社長同士。


 加えて明らかに葛城さんの会社のほうがスケールが大きいこともあり、敬語を用いている。


 そういえば飲み会の席でも、他の参加者のおじ様たちも軒並み、年下の葛城さんに敬語を使っていたのを思い出した。


 「松平社長、週末はお会いできず残念でした。その代わりおたくの武田明美ちゃんと仲良くさせていただきましたよ」


 いきなり私の名前が!


 「うちの武田とですか。楽しんでいただけたようで幸いです」


 「で……、早速ですが、その明美ちゃんいます?」


 まずい。
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