魅惑への助走
 「明美ちゃん、これから葛城さんといい感じに、なんてどう? あ、でも明美ちゃんは彼氏持ちだもんね。浮気を推奨したらダメだよね」


 榊原先輩は私に葛城さんを勧めかけて、慌てて口を閉じる。


 私に彼氏がいることはみんな知っているので、なかなか色めいた話題には発展しない。


 「それって、次の作品のあらすじになりません? 彼氏がいるのに、出会ったばかりのイケメン社長と……なんて」


 「いいかも。このネタ、いただき」


 榊原先輩は大急ぎでネタ帖にメモしていた。


 雑談で盛り上がっていると、いきなり会社の電話が。


 「はい、SWEET LOVEです」


 松平社長の回線にかかってきたので、社長自ら受話器を取った。


 「先ほどはどうも。あ、武田ですね。少々お待ちください」


 社長の言葉に、嫌な予感が。


 「明美ちゃん。さっきの葛城さんから」


 社長は一旦保留ボタンを押し、内線で私に繋いだ。


 後ほど電話するとは言ってたけど、まさかこんなに早くかかってくるとは……。
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