魅惑への助走
 ……。


 「あの夜、良すぎたから。酒の勢いによるただの一夜のあやまちで終わらせるには、あまりに惜しすぎたんだ」


 背を向けてシーツに包まった私を、背後からそっと抱くのは……。


 「今日も良かったよ。強引に拉致してきて、大成功……」


 私を包み込む腕の力が強まった。


 「誰にでも同じセリフを吐き、誰とでも同じことしてるんじゃないですか?」


 最後の抵抗というか捨て台詞。


 「明日は別の女をどっかに拉致して、また上手くやれればいいですね」


 何もかもがこの人の意のままになってしまうのが悔しくて、つい刺々しい言葉を。


 「俺、そんな暇じゃないんだけど」


 葛城さんは苦笑しつつ答える。


 「仕事の合間に明美ちゃんとの夜を思い出したり、次はどうやって捕まえるかをあれこれ考えていれば、毎日があっという間に過ぎていく」


 「嘘ばっかり」


 「嘘じゃないよ」


 「他にも、女なんて数え切れないほどいるんですよね。葛城さんすごくもてるって話ですから」


 いとも簡単に落ちてしまった自分が悔しくて、なおも憎まれ口を叩く。


 「そんなに買い被らないでくれよ。もてるかもてないかは別として、複数の女掛け持ちして遊んでる暇なんてないんだから」
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