魅惑への助走
 「おはよう、明美ちゃん」


 「おはようございます。社長、今日は早いですね」


 「DWS(親会社)との打ち合わせが十時からあるからね。その予習を今のうちに」


 「そうでしたか……。お疲れ様です」


 我々は飲み物はセルフサービスだけど、忙しい社長のために特別にコーヒーを注いだ。


 「次回作の打ち合わせなんだけど……。今年中に運命の出会いは無理かしらね」


 社長はカレンダーを眺めながら、ため息をつく。


 秋が深まってきた今日この頃、今年も徐々に残り少なくなっていく。


 今年中に「理想のAV男優」、SWEET LOVEの屋台骨を背負うこととなる絶対的エースを見つけることを目標としていたものの。


 運命の出会いは訪れないまま、今年もあと二ヶ月弱となってしまっていた。


 「おはようございます」


 ノックと同時にドアが開き、低い声に振り向く。


 「あら葛城さん。今日も武田に?」


 今朝も葛城さんがSWEET LOVEのオフィスに顔を出した。
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