魅惑への助走
 「あっ、違う違う違う!」


 私はソファーから飛び上がり、慌てて上杉くんの元へ駆け寄りDVDを取り上げた。


 「……どしたの?」


 幸いにして上杉くんは、サイズが全く同じこともあり、そのアダルトDVDをCDだと思い込んでくれていたようだ。


 SWEET LOVEのパッケージは、男性向けAVのようにエロティックな場面を表示したりと扇情的なものではなく。


 ただのラブロマンス映画みたいなもの、一見してもアダルトDVDだとは分からないような美しいものを心がけている。


 マニアならば「SWEET LOVE」という表記を目にすれば察するかもしれないけど、パッケージを見ただけでは普通の人はこれがAVだとは気付かない可能性大。


 上杉くんはCDだと思って疑わず、私が挙動不審なのを不思議そうに眺めていた。


 「こっち」


 慌ててDVDを隠しても怪しまれるので、脇に押しやり、お気に入りCDを急いで取り出してデッキに差し込んだ。


 音楽が流れ始めるとすぐに、上杉くんの首に腕を絡め、キス。


 CDを巡る一瞬のゴタゴタが記憶に残ることがないよう、今のDVDの存在もタイトルもすぐに忘れてしまうよう、濃密なキスをくり返してそのまま甘い時間へと誘い込んだ。
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