魅惑への助走
 ……。


 「上杉くんみたいな奥さんがいて、私とっても幸せ……」


 抱き合った後、ベッドの中で過ごすこの穏かな時間が好き。


 初めての相手、そして歴代の体の関係だけの人たちはほとんど皆、行為が終わるとさっさと帰ってしまったり。


 用済みとばかりにだるそうな態度を取るので、こんな安らぎを知らずにいた。


 情熱的な渇望の時間を終えた後は、こうやって互いの温もりを感じたまま触れ合い、ゆっくりと鼓動を落ち着かせていく……。


 「俺がもしも女の子で、明美みたいな彼氏がいたら、安心して身を任せられたんだろうね」


 「お互い逆に生まれたらよかったかもね」


 成功を掴むために、「女」を利用してきた面も今までの私には少なからずあったので。


 もしも男で、実力だけで勝負しなければならなかったとしたら、いったいどんな人生だったのだろうとたまに考える。


 いや、男であろうと、枕営業みたいなことをしている人はいるか……。


 そう考えると、結局どっちにしても同じような人生になっていたのかもしれない。
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