魅惑への助走
 私がいつも上杉くんとくり返しているのは、愛を確かめ合う行為。


 ていうか快楽を求め合うための行為。


 根本的には……子供を作るための行為。


 もちろん避妊はしているけれど、絶対ということは決して有り得ない。


 実際AVの撮影現場でも、時折トラブルが発生する。


 AV男優・女優は一般人以上に、徹底した自己管理が必要とされる。


 快楽のままに好き勝手やって、妊娠したり病気が感染とかなれば仕事にならない。


 彼らは体が資本。


 にもかかわらず、片桐のような破廉恥男優は、避妊しないほうが感度が高いなどと女優をたぶらかして、避妊なしで撮影に及んでトラブルを起こしたことがあると聞く。


 それはともかくとして。


 もしも私が今、妊娠してしまったら?


 SWEET LOVEには前例がないので、どうなるか正確には分からないけれど……、仕事を辞めろってことにはならないと思うけれど、妊婦ともなれば胎児の安全のために業務を縮小する必要に迫られるはず。


 当然今のようには働けなくなるだろう。


 出産の前後は、当然休まなければならない。


 ……今私が働けなくなったら、二人の生活は成り立たなくなってしまう。


 経済的に。


 子供ができてしまったら大変なことになる。


 避妊していても、絶対ということはないのだから……。


 暗闇の中、一人であれこれ考えていた。


 はっとして横を見ると、上杉くんはもう寝てしまったようで、安らかな寝顔を見せている。
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