魅惑への助走
***


 私が部屋を飛び出し、無断外泊をしたこの日を境に。


 確実に私たちの間には、隙間が生じた。


 一緒にいても、他人同士のようなよそよそしさを感じる。


 以前のように無邪気にじゃれ合い、抱き合うことは……もうない。


 寝る時も同じベッドに、互いに背中を向けて。


 不自然さやぎこちなさをごまかすために、適当な用事を設けて寝る時間をずらしたり。


 だいたい私が、持ち帰った仕事を口実に、ベッドに入るのは後。


 上杉くんがすでに寝ているのを確認してから、静かにもぐり込む。


 ……私の気配を感じても、もはや上杉くんは私に触れようともしない。


 ただ同じ空間で息をして、時間を共有しているだけ。


 経済的な問題で、すぐにこの部屋を出て行くこともできないから、きっと我慢をしているのだろう。


 そんな毎日に息苦しさを覚え、葛城さんと予定が合う際私は外泊を繰り返した。


 そして部屋に戻る時、ますます気が重くなっていく……。
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