魅惑への助走
 「送ってくれなくていいよ。友達に明美のこと見られたら、何て紹介すればいいか困るし」


 玄関を出てついていこうとする私を、上杉くんは苦笑いを浮かべたまま止めた。


 確かに。


 その友達とやらに会うまでは、私はおそらく「彼女」。


 友達と合流し、私と離れた瞬間から私は「元カノ」へと変化する。


 説明するのもややこしい。


 「ここでいいから。じゃ、元気で」


 上杉くんがドアノブに手を伸ばした時、


 「待って」


 またしても呼び止めた。


 「最後に……、話しておきたいことがあるの」


 「なに?」


 「誤解されたままじゃ、すっきりしないから。……上杉くんが見たアダルトビデオの主演女優、あれ私じゃないから」


 「え? ……だって、タケダアケミ」


 「第一、彼氏に隠れてAVに出演するなら、本名で出演するなんて変じゃない? いくら漢字は違うっていっても、バレる危険性は高まるんだし。それに……私あの女優さんほど、巨乳じゃないから」


 「明美、」


 「何回も触れて確かめているはずなのに、全然違うって分からなかった?」
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