魅惑への助走
 「まさか」


 「私がAV制作会社で働いていたのは事実。言いにくくてずっと隠していたけれど……。でもあのAV女優は全くの別人だから。それだけははっきり伝えておきたかった」


 「だってあの顔つきに、ネットで検索して出てきたあのプロフィールも」


 「私の勤務先・SWEET LOVEでもあまりの酷似ぶりに、かなり騒ぎになったくらいだった。だけど私と竹田朱実ちゃんは完全に別人」


 上杉くんはまだ疑っている様子。


 あんなに何もかも知り尽くした間柄だと思っていたのに、一度生じた誤解はなかなか解けない。


 「今まで隠していて、本当にごめん。私の勤務先は、SWEET LOVEってところ。もうネットで調べて気付いていると思うけど……アダルトビデオを製作する会社。そこで私はスタッフとして働いているの。だけどAV女優じゃない」


 今さら伝えたところで、どれだけ理解してもらえるか分からない。


 それでも話すだけは話しておこうと判断し、私は今までひたすら隠し続けてきた仕事の話を始めた。


 こんな別れの間際になって。
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