魅惑への助走
 「実際、道は二つに一つだね。周囲の意向を突っぱねて、書きたいものを書くか。それとも自由を得る日まで我慢するか」


 「……」


 葛城さんが言う通り、私の辿るべき道は二つに一つなのは分かっている。


 本音はもちろん、書きたいものを書きたい、に決まってる。


 ただし勇気がない。


 上の意向に逆らったら、次の話は来ないかもしれない。


 まだまだ新人作家の域を出ない私が、編集部のバックアップなしに一人で執筆活動を続けていけるはずもない。


 「明美を早く自由にするために、本を買い占めてやってもいいけど?」


 「やめてくださいそれだけは。……むなしくなるだけだから」


 葛城さんは私のために、作品を買い占めてくれようとする。


 その都度私は絶対にやめてと繰り返す。


 ありがたいといえばありがたいのだけど……。


 そんな見せ掛けだけの売り上げ数値、たとえ百万部突破、ミリオンヒットになってもむなしいだけだった。
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