魅惑への助走
 私は「あけび」というペンネームで、執筆活動をしている。


 プロフィール欄は「海外在住の専業主婦」……だけの覆面作家。


 いずれ葛城さんがサッカーのクラブチーム運営を本格的に始動させる頃カミングアウトして、互いの知名度アップという相乗効果を狙うらしい。


 ちなみに「あけび」とは、私はあまり詳しくはないのだけど、野山でよく見られる蔓性の樹木のようだ。


 果実は山菜料理としても用いられると。


 本名に近い「あけび」という名で私は小説を発表している。


 思えばAV業界でADを務めたり脚本を書いていた頃も、ペンネームで活動していた。


 タケダアケミの名前で世に何かを残すことはできなかった。


 やがて私の正体をカミングアウトする際、その時初めて私の名前は世の中に広められるはず。


 今は……葛城明美。


 上杉くんはどこかで、私の名前を耳にするのかな。


 ……また上杉くんを思い出す。


 今頃どうしているのだろうかなどと考えてしまう。


 順当に行けば、去年の春の司法試験を受けた上杉くんは無事に合格すれば、今頃研修生として経験を積んでいるのだろうか。


 研修期間はどれくらいなのだろう。


 近々弁護士としての活動を、本格的に始めるのかな。
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