魅惑への助走
 ……その夜は胸がざわざわして、ベッドに横になってもなかなか眠ることができなかった。


 こういう時いつも側にいて抱いてくれる葛城さんが、この日は不在だったというのもある。


 落ち着かない。


 寝ようとしても先ほどのアダルトビデオ、佐藤剣身の姿が瞼にちらついて、睡眠を邪魔する。


 自然体の演技から、カラミのシーンへと突入していく瞬間。


 佐藤剣身のまなざしが、獣に変わる。


 それから相手役のAV女優と……。


 作品の中の虚構の世界とは分かっているはずなのに、画面を通じて他者の性行為を覗き見しているかのような錯覚に襲われる。


 しかもそれは、全く面識のない人のではなく……元カレとAV女優とのカラミ。


 私が何もかも知り尽くした昔の男が、他の女とやってる映像を繰り返し再生するなんて、趣味が悪いにも程がある。


 そして今、眠れないまま夜はゆっくり過ぎていく。


 体の火照りが鎮まらない。


 あんなDVDを見てしまったから、体の疼きが止まらなくなっている?


 もしかして私、佐藤剣身にあんなふうにされてみたいって、本当は願っている?
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