魅惑への助走
 「……留守中、お利口にしていたかな?」


 出張で二晩家を留守にしていた葛城さんが帰宅。


 荷物を整理しお土産を片付け、早速その夜は二人甘く絡み合い……。


 「……俺がいない間寂しくて、佐藤剣身のビデオ見ながら一人……なんてしてたんじゃ」


 「!」


 佐藤剣身のビデオ、アダルトDVD見ていたことどうしてバレてるんだろう。


 「私、一人で……なんてまさかそんな」


 「じゃ、佐藤剣身のビデオ見ていたのは事実だね」


 どうやら誘導尋問に引っかかったらしい。


 「夫の留守中にポルノ男優のビデオを見て楽しんでるなんて、困った妻だね」


 昨今では「AV男優」という呼び方が一般的だけど、ポルノ男優なんて久しぶりに耳にした。


 「ポルノ男優じゃありません。SWEET LOVEでは出演男優にはちゃんと、ヴィジュアルモデルという呼称が」


 「ヴィジュアルモデルって言われると、ヴィジュアル系バンドをイメージさせるんだよね。……呼び名はどうあれ、やっていることは同じだよね。寂しい人妻を慰め、その気にさせる」


 「私別に、寂しくなんか」


 「心細い時明美は、執拗にこうして俺にまとわりついてくる」


 「……」


 「長い夜一人で、ずっとあれこれ考えごとしてたんだろ? あとで話はゆっくり聞くから」


 その前に甘く唇を重ね合い、言葉は吐息の奥に閉ざされた。
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