魅惑への助走
 「籍を抜いてしまえば、法的に俺は明美を守る術はなくなる。でも……。可能な限り明美を支えていくつもりだから」


 夫婦としての扶養などそういう法的なメリットはなくなるものの、今までとなるべく変わらない生活を続けていこうと葛城さんは提案した。


 形式上、住まいは別にして、私はSWEET LOVEの近くにマンションを借りる。


 でも時間が許す限り一緒に過ごし、籍を抜く以外はあまり二人の関係に変化はないらしい。


 「これって……。内縁関係とも表現できるんじゃ」


 「恋人関係に戻るってことで。体だけの関係でもいいけど」


 「それはちょっと」


 二人で苦笑しながら、書類提出の窓口へと向かった。


 離婚届を提出に来たとは思えない、微笑みながらの二人の姿を窓口の係員は不思議そうに見つめていた。
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