魅惑への助走
 先日の、携帯小説サイト「magic theater」がユーザーに対して実施したアンケート。


 自サイトに登録されている作品を読む際に、どのようなきっかけで読み始めるのか? という項目で。


 その作家さんのファンだから読むようにしている、というのよりもむしろ。


 「ランキング上位などでたまたま目にしたから」「作者名にはこだわらない」といった回答が多かったらしい。


 だから作品さえよければ、「あけび」という存在が消えたとしてもさほど変わることはないような気がしていた。


 「あけび先生の作品が読めなくなるのは、うちのサイトにとっては大打撃。そう簡単に穴埋めできるようなことではないのに……」


 梨本さんは頭を抱えた。


 ……期待を裏切って、こんなあっさりと活動を辞めてしまうことに若干の申し訳なさも感じる。


 とはいえいつかはこうして、引退の日を迎えなければならないはずだった。


 入れ替わりや浮き沈みが激しい、携帯小説業界。


 いつまでも人気を保っていられるわけでもない。


 できれば「あけび」は、最盛期に惜しまれつつ、華々しく引退の日を迎えたいと願ってもいた。
< 669 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop