魅惑への助走
 「そっか……」


 梨本さんは笑みを浮かべたまま、ため息をこぼした。


 「そこまで決意が固いなら、明美ちゃんの門出を笑顔で送り出してあげなくちゃね」


 「ありがとうございます。……最後の作品、頑張ります」


 「二人で頑張って、最後の作品、最高傑作にしようね」


 最後の作品の構想はもう練り上がっていた。


 AV制作会社で、AV男優に片思いする女性スタッフのお話し。


 「アダルトビデオ内の性行為のようなどぎつい性描写は我が社はNGだけど、舞台がAV制作会社であるだけなら問題なし。斬新かつ官能的なお話しを楽しみにしてるから」


 梨本さんもいつしか、「あけび」の最後の作品の話に夢中になっていた。


 「あけび先生の最終小説製作作業と並行して、後継者となるべき次世代の人気作家の発掘も始めておかなくては。忙しくなるなー」


 「……もう見つかってるじゃないですか」


 「えっ、誰のこと?」


 「梨本さんです」


 「は? 冗談」


 「梨本さんが作家デビューするのが、最善の手段だと思います」
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