魅惑への助走
 「そうでしたね……」


 担当編集者となった梨本さんに初めて会った時、自己紹介でちらっとほのめかしていた。


 担当者はいずれ変更になるかもしれないと。


 magic theaterの運営元である大手出版社は様々な部署を抱え、部署間の異動も活発。


 マンネリ打破のためだとか、担当編集者と作家との馴れ合いを抑制するためだとか言われているけれど……。


 それゆえ数年から五年程度で、梨本さんもmagic theaterから別の部署で異動となることが濃厚。


 そうなると異動先の業務で毎日が精一杯になってしまい、携帯小説との繋がりがなくなってしまうのは時間の問題だろう。


 「ちょっと考えてみようかな。自分で書いてみることも。今後の身の振り方も含めて」


 梨本さんはさすがに即答は避けたけれど、今後の展開に対し前向きな姿勢を見せた。


 「私も陰ながら応援させていただきます」


 「自分でも書いてみたいと思う気持ちには嘘偽りはないし、それにもう一つ、もうちょっとアダルト系な小説サイトも、magic theaterのお姉さま的サイトとしてオープンさせたいっていうのもあるんだよね」


 「ちょっとアダルト系ですか。だったらいずれ、私とコラボといきたいところですね。そこでAVの原作小説を公募して、優秀作品を私が映像化するって特典で」


 「それ面白いね」


 その後しばらく互いの夢や希望について語り合い、会話は久しく途絶えることはなかった。
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