魅惑への助走
***


 元の職場、SWEET LOVEに復帰する日。


 新居となった職場近くのマンションにて鏡の前、スーツの着こなしを確認していた。


 元の職場とはいえ数年間のブランクがあるため、再び足を踏み入れるのはやはり緊張する。


 私がいなくなってから、新たにスタッフとして加わったバイトの子とかもいるらしいし。


 ……かつて後ろ足で砂を掛けるような真似をして無理矢理退社した無礼な私を、松平社長も榊原先輩も暖かく受け入れてくれた。


 もしかしたら心の奥では、まだ怒っているかもしれない。


 その埋め合わせのために私が一番しなければならないことは、ブランクを埋める、いやそれ以上の働きをすること。


 昔よりさらに完成度の高い作品を制作すること。


 今まで散々好き勝手やってきたから、これ以上はもう後戻りはできない。


 退路はすでに絶ってきた。


 これからはSWEET LOVEに骨を埋める覚悟で。
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