魅惑への助走

　「ま、いっか」


　携帯電話をそのまま充電台に戻した。


　返信しなかったのは、時間がもう遅いからという理由だけではない。


　今の自分の現状が、ひどくつまらなく感じられたから。


　……今日は一日、初めて尽くしの一日だった。


　大学時代の先輩との、突然の再会から始まって。


　AV撮影現場に潜入して、スタッフの皆さんそしてAV男優や女優ともお話をしてしまった。


　わずか一日で、未体験ゾーンを幾つもクリアした。


　今まで狭かった世界が、一気に拡がったような気がする。


　そして鮮やかに色を持ったような。