魅惑への助走
***


 それからしばらくの月日が流れ。


 私は女性向けAVメーカー・SWEET LOVEで正社員として勤務している。


 AD(アシスタント・ディレクター)という肩書きも手に入れた。


 SWEET LOVE創設に伴い、松平さんが社長に就任し、榊原先輩は監督(ディレクター)として現場で指揮を取るようになった。


 私はADとして、榊原先輩の補佐。


 そして自作の短編小説を脚本化し、オムニバス作品集に採用されたりもしている。


 私は今やSWEET LOVEの、一翼を担う存在として活躍している。


 多忙だけど自分の能力を発揮できる、楽しい仕事。


 小説家志望で、何かを表現したい、披露したいという抑え切れない衝動がやっと満たされた。


 ただしAV業界。


 世間には声を大にしてアピールできない仕事。


 表向きは映像関連会社(あながち嘘ではない)勤務ということにしてある。


 作品が採用された際、パッケージに表記される私の名前は「艶花.T」。


 「あでか」と読み、その由来は私の本名「武田」をローマ字で逆にすると「ADEKAT」。


 最後のTを分離して、艶花.Tと名乗ることにした。


 さすがにアダルトビデオのパッケージに、本名を晒す勇気はない。
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