魅惑への助走
***


 その日からというもの。


 仕事が終わってから寝る前にかけて、上杉くんとのメール交信が日課となった。


 向こうは私の仕事の邪魔にならないか気にしてくれているようだけど、私も上杉くんの勉強の邪魔をしてるんじゃないかって心配になってもいる。


 私はたとえ寝坊して遅刻をしても、ロケとか集合時間のある勤務でない限りは、その分多く働いてその日の予定をこなせば、あまり問題にはならない。


 よっぽど上杉くんのほうが、今は大事な時期だと思う。


 「まだ十ヶ月あるし。今から根を詰めて勉強していたら、息切れしちゃうよ」


 意に介さない様子。


 いつかまた食事にでも……って曖昧な約束だったけど、明日私は定時に帰宅できそうなので、思い切って上杉くんを誘ってみた。


 SWEET LOVEの他の人とは帰宅時間が合わず、結局いつも一人で食事ってパターンばかりだったから。


 「俺は大丈夫だけど。武田さんはいいの? せっかくの定時上がりなんでしょ。彼氏と過ごしたほうがよくない?」


 上杉くんは私に、彼氏がいると思い込んでいたらしい。
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