ひゃくぶんの、いち。
いちぶんのいち
『坂崎さん、髪切ったの?』
初めて羽柴くんと話をしたのは、三年生になって三ヶ月が過ぎた時。
以前からの友達の後ろに引っ付いて、自分からは他人に関わっていけない私を、まさか知っていてくれたなんて思わなくて、たった一言の返事すら出来なかった。
『結んでるところしか見たことなかったから、下ろしてるのって新鮮。可愛い』
『え…?』
『あー…ごめん。キモかった?急に新鮮とか言われても、何見てんだって思うよな』
そんなことないよって言いたかった。
ありがとうって。びっくりして声が出なくて、頭も回ってないだけなんだよって。
気まずそうに笑って、じゃあねって手を振ってくれたあの背中がずっと忘れられない。
夏の気配がすぐ後ろに忍んで、時折足元を掬うような危うさを孕んだ季節から、一度二度と移ろいで
卒業を間近に控えた今になっても。