ひゃくぶんの、いち。
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胸の辺りまで伸びた髪を丁寧に鋤いてくれる優しい手付きに、こくりと頭を揺らす。
「ふふっ…千華の髪は綺麗だね」
「お姉ちゃんが手入れしてくれたからだよ。私、肌のことも髪のことも何もわからないもん」
卒業式には出ないつもりだったから、荒れに荒れた肌も髪もずっと放置していた。
学校に通っていた頃は、伸ばしていた時はもちろん、羽柴くんが可愛いと言ってくれた髪型の時もしっかりと手入れをしていたのに。
「明日が本番なんだからね。今日は一緒にお風呂に入って、仕込みしなきゃ」
「…なんかそれ、私が食材みたいなんだけど」
「そりゃあ、可愛い妹が頑張るって言うんだもの!魔法もおまじないも沢山かけてあげる」
「ありがと。喧嘩しないようにしてね」
鏡越しに目の合った姉と笑い合う。
右頬の違和感は未だに残っていて、口角を上げることは出来るのだけれど、戻そうとすると引き攣ってしまう。