スリーアウトになる前に。
好きな女性をしっかり追いかければいいのに。そういうところ、相変わらず弱いのだろうかと分析していたら、
「誰の話してるかわかります?」
探るように聞かれて慌てた。
なんだっけ? 賢くて余裕があって? あ、相手にされないってもしかして。
「もしかして……香?」
「新婚の妊婦に片思いですか。どんだけ自虐キャラですか」
さっきより深いため息をつかれる。だよね、しかも年上とかないか。
「サッカー好きってのも必須条件」
沢田くんはグラスを傾けながら言う。この骨ばった感じの手首が好きだなとぼんやり思う。
「亜由美さん? 聞いてます?」
「あ、真奈ちゃん? イケメンくんと取り合ってるとか?」
「は? ……なんで俺が部下口説かなくちゃなんないんですか」
「あれ? なんかあったりしてない?」
「ないですよ、あいつはサッカー要員」
「あれ? 超強引に口説いたんじゃなかった?」
「植木を? パワハラですか、俺」
お互い何言ってるのかわからないという感じに目を見合わせた。 真奈ちゃんに私、からかわれたとか? でも口説かれたって言ってたけど。
「亜由美さん、わざとやってますよね?」
ふてくされたように言われるけど。
え、まさか、私ってことなの? いや、でも今自信も余裕ないし?