スリーアウトになる前に。
それに、だったら先週のあの何もなさはなによ。

「こないだ、何にもなかったよね?」

転がり込んできた先輩を泊めてあげたとか、そんな感じだったでしょ?



「酔ってるとこつけこむとか、そういうのはフェアプレイじゃないですから」

「女の子強引に口説きまくってるんじゃないの?」

「だからなんなんですか、それ?」

「真奈ちゃんが魔の手にかかったって言ってた」

グラスに口をつけた彼にぼそっと告げたら、がごっと変な音を立てて沢田くんが咳き込んだ。

「大丈夫?」

慌てて背中を撫でながら顔を見ると、「チーム入れって口説いたってことでしょ」とまだ苦しそうな顔で睨まれる。

え、あ、そういう。

そういえばフットサルに勧誘されるよって結婚式で会った人も言ってたね。熱く誘ってるわけね。

「どんだけキャラ変貌してんですか、俺。平内ならともかく」

香のダンナさんの名前を出して、ブツブツ言ってる。

まあね、そうだよね、どうしたのかなって私も思ったけどさ。社会人になってから調子に乗っちゃう人っているからさ。



気まずくて無言でスカートを拭いた。さっきお酒がちょっとかかった気がする。気がするだけかな。

「すいません、汚れた?」

「ちょっと」

「着替え貸しますけど、来ます? 今から」

ほら、そういう誘いも慣れてそうなくせに、とやっぱり思いつつ、うん、と答えていた。


「えええ? いいんですか、酔ってないですか。後で泣いたりしても知りませんよ?」

うろたえたような早口が返ってきて、なんなのもう!とこっちが恥ずかしくなる。

やっぱりただの押しの弱い沢田くんのままなのか。

「泣かすの?」

「……泣かせませんよ、絶対」

じっと目を見て、力強い答えが返って来た。

うん、でもやっぱりいい男になってるよ。

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