スリーアウトになる前に。
「なりたかった?」

腕の中で向きを変えて顔を見る。香のダンナに比べたらね、イケメンではないなあ。でもかっこいい。

「いや、今の方がずっといい」

引き寄せられてキスをする。

「浮気は一発レッドカードね」

最初が肝心。とここは年上風を吹かせてみたりして。

強え、と本当に嬉しそうに笑って、沢田くんはぎゅっと抱き締めてくれた。

うん、男は仕事、筋肉、それから少しの愛嬌かな。



スリーアウトになる前に、タイミング掴めてよかったね私たち。

「今度はクリーンヒットかも」

迷いなく進めそうな気がするから。理想のタイプと居心地のいい人が、きっとやっと重なった。

「なんでまた野球なんですか」

眠たそうな声で文句を言われる。いいじゃない、野球でも。高みを目指す男と一緒に、私もプレイしたいのよ。

「好きなんだからいいでしょ」

あくびをかみころしながら、腕の中で答える。

「俺も好きですよ」

心地よい言葉を聞きながら、野球を? それとも私を? と生まれた疑問は、でももうどちらでもよくて。

好きな人と一緒に眠りに落ちていく幸せに、私は静かに身をゆだねた。




THE END
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